地域元気活動

地域・元気活動紹介

2020/03/11

琵琶(演奏家・製作者)に情熱を注いで40年!!

薩摩琵琶を弾く大橋鶴鵬さん薩摩琵琶を弾く大橋鶴鵬さん各種の琵琶が並ぶ床の間各種の琵琶が並ぶ床の間


琵琶奏者であり製作者でもある方は、日本で数人しかいないということですが、そんな凄い方が身近におられるということでご自宅へ伺ってみました。
その方の名は大橋鶴鵬(おおはしかくほう、本名大橋守)さんです。大橋さんは今年67歳になりますが、現在菊川市に在住されています。いただいた名刺には「薩摩琵琶正派、琵琶製作 大橋鶴鵬」とあり琵琶奏者・製作者であり、もう一枚の名刺には「一井測量設計事務所、測量士 大橋 守」とありサラリーマンでもありました。
ご自宅は周辺が田んぼや畑に囲まれた長閑な田園風景の中にありました。気さくな感じで出迎えていただきましたが、部屋の床の間にはなんと9面(琵琶の数量単位)の琵琶が整然と並べられていました。いきなり圧倒されてしまいました。

大橋さんは昨年(2019年)の6月2日(日)〜16日(日)にかけて友人からの依頼もあり掛川城二の丸御殿にて「大橋鶴鵬製作の琵琶展」を開催されました。8日(土)には「大橋鶴鵬氏による琵琶の演奏とレクチャー」と題して生演奏を交えた講演を行いました。最近、掛川城も大変人気があり全国各地から観光客が訪れるようになりましたが、当イベントをたまたま知った方も含め、琵琶への関心が高いことに驚かされたということです。特に8日(土)は琵琶の持ち方や弾き方に関心を持たれる方が多く、説明と実演で朝から晩まで忙しい一日だったようです。
また、期間中は大橋さんが製作された17面の琵琶も展示され実際に手で触れることも出来た為、来場者の皆さんは琵琶の魅力を堪能されたようです。



琵琶の名称(正面部分)琵琶の名称(正面部分)琵琶の名称(側面部分)琵琶の名称(側面部分)


そこで大橋さんに琵琶との出会いについて聞いてみました。
大橋さんは元々新潟県小千谷市の出身であり兄弟姉妹4人で少年時代を送っていました。お兄さんは民謡が得意でとても敵わない存在となっていました。お兄さんの頑張る姿を見て自分も何かしたいと思っていた中学生の頃に、たまたまテレビで琵琶奏者が琵琶を弾いているのを見てその音色を聞く機会がありました。その当時、大橋少年は「あゝ琵琶の音は魅力的で凄いなぁ」「だけどちょっと気味悪いイメージだなぁ」とただ漠然と思っただけのようでした。そこで琵琶を始めたわけではありません。それ以降琵琶という存在は十数年もの間全く忘れていたそうです。

その後、就職で掛川市に移り住んだ際、静岡新聞で琵琶奏者(中村鶴翔氏−後に大橋さんの先生となる方)の記事を偶然に見つけました。こんな近くに琵琶奏者がいるのであれば一度会ってみたいとの思いが強くなり、何も考えずにすぐ静岡新聞社へ電話して連絡先(中村鶴翔氏)を教えていただきました。そして中村鶴翔氏にすぐ手紙を書いて琵琶を教えていただきたい旨を伝えました。それまで琵琶のことは全く忘れていたのに静岡新聞の記事を見た途端中学生の頃のことが甦ってしまったようです。
そして念願の中村鶴翔氏に会うことが出来、早速琵琶を教えていただくようお願いしました。「もしあの時静岡新聞を見ていなかったら、一生琵琶には出会っていなかったかも知れませんね。」これが大橋さんの琵琶との初めての出会いであり、琵琶奏者となる第1歩でした。昭和56年、27歳の時でした。

次は琵琶製作者となるきっかけについて聞いてみました。
まず、先生(中村鶴翔氏)から琵琶を弾くには自分の琵琶が必要だということで、全国に1軒しかない東京(虎ノ門)の琵琶製作者石田不識氏(後に人間国宝となる)のところを紹介していただきました。ところが注文を受けて出来上がるまでに何ヶ月もかかるようだと先生(中村鶴翔氏)に言われた為、越谷市に琵琶奏者兼製作者がいるということでそちらへ伺いました。そこで自分が琵琶の練習を続けるかどうかも分からないままに琵琶1面の価格が25万円、撥(バチ)が4万円のセットを何の迷いも無く購入してしまいました。ところが練習を始めてその琵琶を弾いてみると全く音が出ないことが判明したため、その琵琶を弾くのがいやになり、この程度なら自分でも作れるのではないかと思うようになったようです。今までもお祭りの時に使う横笛を作ったり色々な工作品を作ったりすることが大好きでした。そこで大橋さんは5000円ほどでラワン材を1枚購入しその他の材料(弦、鯨の骨、象牙など)も揃えて自分が買った琵琶を参考に作ってみました。そして先生(中村鶴翔氏)に見せたところ、これはプロの製作者に見せた方がいいと言われ石田不識氏のところへ持って行きました。すると石田不識氏から「音が出るなぁ」と褒められ気をよくして琵琶作りにさらに没頭するようになりました。その後石田不識氏にも色々とノウハウを教わりながら日々製作を続けていきました。1年くらい経ってから自分が大枚をはたいて購入した音の出なかった琵琶を惜しげも無く割って分解してみたところ音が出ない原因が判明しました。内側の削り方が悪いということでした。大橋さんはいつしか琵琶演奏と琵琶製作が趣味となっていたということです。現在でも1年に1面程度製作をしていますが、最近では修理の依頼が多いようです。


象牙で作られている半月部分象牙で作られている半月部分象牙で作られている猪目の部分象牙で作られている猪目の部分


柘植で出来ている撥(バチ)柘植で出来ている撥(バチ)撥面に蒔絵の布が貼られている(装飾)撥面に蒔絵の布が貼られている(装飾)


ここで琵琶はどんな材料で出来ているか教えていただきました。
ます本体は堅い材質の桑の木が使われています。(さくらやけやきも使われている)桑の木の原木を購入し10年〜20年以上も寝かしながら75mmに製材したものをひたすら捻りがなくなるまで寝かしたものを使って本体部分を作り上げていきます。表面裏面を貼り付けるには以前は漆(接着力がいい)が使用されていましたが、最近では膠(にかわ)を使用しているようです。膠は接着力が少し劣るため時々割れることがあるようです。過去の経験では琵琶展示中に自分が弾いていた琵琶がエアコンの暖房と乾燥に耐えかねてパーンと割れたこともあったようです。
その他の部分は琵琶の表面の装飾に使う象牙(半月模様の部分用)、鯨の骨(表面用)、絹糸(弦用)、柘植(撥用)などで出来ているとのことでした。

さらに話を進めていると、大橋さんから「琵琶の音色は聴いたことがありますか?」と実際に目前で弾いて見せてくれました。薩摩琵琶の調音は自分の声に合わせます。女性は声が高いから高い音に合わせます。男性女性それぞれの声に合わすため合奏することが出来ないようです。また、琵琶は木材と弦(絹糸)などで作られているのでその日の天気によって音色が全く変わってしまうようです。薩摩琵琶は弾き語りの楽器の代表的なものです。弾法⇒語り⇒弾法⇒語り⇒弾法・・・中でも物語の中にある合戦の場面での弾法で撥を弾く音によって琵琶奏者のテクニックが分かるようです。細かい微妙なタッチが必要となるからです。さらに演奏会では余韻(小さな音)が大切なので暖房や冷房のエアコンのスイッチを切ってもらうこともあるようです。それくらい繊細な音色もあるようです。大橋さんは取材当日少し風邪気味だったので語りの部分は省略されましたが、しばらく演奏を聴かせてくれました。なんと素晴らしい音色でしょう。聴き惚れてしまいました。

薩摩琵琶は500年の歴史はあるが基本的に練習用の譜面はないようです。筑前琵琶には明治45年に教えるための譜面(五線譜)が作られました。練習し易い、また教しえ易いこともあり人間国宝に筑前琵琶奏者から2人も選ばれています。薩摩琵琶がつくられた鹿児島には宗家がおらず郷中(ごちゅう)教育制度といってグループの中で一番上手い人が次の年代の人を教えていくという制度の中で伝承されていったそうです。練習用の譜面が無く、実際に先生の横に座って琵琶に触れて音を聴いて見よう見まねで覚えていきました。従って1曲覚えるのに時間が相当かかったようです。

ずばり薩摩琵琶の魅力はなんですか?
薩摩琵琶の形は世界中のどんな楽器より美しいと思います。曲線美、ほとんど直線の部分がなく美しい形をしています。薩摩琵琶の音色にも魅力があります。特に薩摩琵琶の一番の特長である「さわり」という部分が一番重要な音であり難しい部分でもあります。
ビリビリーンという「さわり」の響きはなんとも言えない薩摩琵琶の響きです。実際に聴かせていただきましたが、かなりテクニックが必要のようです。


楽琵琶(雅楽の演奏に使われる琵琶)楽琵琶(雅楽の演奏に使われる琵琶)平家琵琶(平家物語を演奏する時に使用)平家琵琶(平家物語を演奏する時に使用)


盲僧琵琶盲僧琵琶筑前琵琶(五弦五柱)筑前琵琶(五弦五柱)


筑前琵琶(四弦四柱)筑前琵琶(四弦四柱)


薩摩琵琶薩摩琵琶錦琵琶(五弦五柱)錦琵琶(五弦五柱)


五柱五柱五弦五弦


五弦用(糸巻き)五弦用(糸巻き)四弦用(糸巻き)四弦用(糸巻き)


最後に大橋さんが製作された琵琶を見ながら日本の琵琶の種類を教えていただきました。
まず、楽琵琶(雅楽琵琶)です。奈良時代に中国から日本へ伝来。宮中では雅楽の合奏で用いられます。
次に、平家琵琶です。鎌倉時代には「平家物語」に節を付けて伴奏する音楽が流行。独奏用の小型の琵琶も作られ、のちに盲僧(盲目の僧)が「平家物語」を語った。琵琶法師が有名。
3番目は盲僧琵琶です。仏教の祈祷や法要に用いられました。
最後は薩摩琵琶・筑前琵琶です。盲僧琵琶が改良された薩摩へと伝来。明治天皇が薩摩琵琶を愛好したために薩摩琵琶の御前演奏なども行われました。明治初期〜中期、筑前の盲僧琵琶を改造して「筑前四弦琵琶」が出来たようです。さらに明治後期〜大正初期にかけ「筑前五弦琵琶」が出来ました。
薩摩琵琶(四弦琵琶)の原型を尊重する奏法、楽器は“正派”薩摩琵琶と呼ばれています。大橋さんはこの“正派”に属しながら琵琶の演奏・製作に頑張っておられます。

なお、大橋さんが製作した薩摩琵琶が、メトロポリタン美術館(アメリカ)にアートコレクションとして収蔵されています。(http://www.metmuseum.org/home.asp)ご参照下さい。

現在も現役のサラリーマンである大橋さんですが、これからも老人ホームや町内のイベントから要請があればできる限り参加したいと考えているとのことです。

私も実際に演奏会を聴いてみたいと思います。

(ご照会は大橋鶴鵬さんへ TEL090−1624−9866)


小笠・榛南地区担当 生きがい特派員 井 豊


 


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